Column

2017.07.13

日本と海外におけるプログラマティック市場の違いについて




トレーディングデスク局
Trading Division
結城 浩史

■はじめに
2011年に日本でプログラマティック広告市場が開かれ、早6年の歳月が経ちました。
この間、国内外で様々なプラットフォーマー、ツールベンダーの登場、Ad-Tech市場に纏わる概念の確立、Mar-Tech事業者によるAd-techのM&A、コンサルティング企業の介入等、様々な出来事が起き、都度業界内での共通認識も刷新され続ける状態となっております。
実際、利害関係者がビジネス上でプログラマティック広告の活用をマーケティング活動内で進めていく上で、何を指針としてキャンペーンの是非を問うか、アトリビューション上のどこにフォーカスすべきか、オフラインとの相関性といったように、取り巻く環境変化のスピードに追従するように議論が飛び交っております。

また、そのようなスピード感に呼応するように多くのシンポジウムも国内外で開催され、マーケティング活動全般や広告文脈の一環としてプログラマティック領域が介入するシンポジウムも多数存在しております。最新のトレンド&ビジョンについて各方面(広告主、代理店、プラットフォーマー、データベンダ等)の有識者によるパネルディスカッションがある等、立場の垣根を越え業界全体で市場を盛り上げようという感覚を覚える一方で、今や企業ビジネス成長の上でインターネット広告、ひいてはプログラマティック領域が見逃せない存在になっているのではないかと実感しております。

※本稿におけるプログラマティック広告はDSPとSSPの2つのシステムを介して自動的に広告取引をすること(文章内で一部非RTBも含みます)と定義します。

■各国におけるプログラマティック領域の浸透度
プログラマティックバイイングが活発になる中で、各国の市場によってどれだけプログラマティック広告が浸透しているかに目を向けてまいります。
下図のように、日本以外の各大陸でGDP(人、企業単位で経済行動の規模が大きい)軸で毎年上位に位置する国におけるプログラマティック領域の市場規模に目を向けると、規模は違えどRTB、非RTB問わず市場規模が拡大している様子が伺えます。

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※Excerpt from Socintel360

その中でも市場規模として最も大きく、プログラマティックバイイングの母国である、米国の広告費用の変遷についてフォーカスしてまいります。
米国では2016年ついにデジタル広告費がTVを抜き、2020年においてTVの1.4倍程の広告費用が見込まれております(※Excerpt from eMarketer)。
また、デジタル広告費の中でプログラマティック(※RTB経由問わず)の占める割合は非常に高くなってきており、ディスプレイ広告の4/5、デジタル広告費の1/3程のシェアとなります。加えて2014年あたりからプログラマティックTVの動きも活発化していることもデジタルへシフトしている一助となっていると考えられると個人的に思っております。
現在、完全なプログラマティックなオンライン入札までは達してはいませんが、手売りとは違ったバイイングがなされつつあります。主にSmartTVの普及や余剰しがちな深夜帯にプログラマティックTV在庫が既に存在しております。アドレサブルTVが可能な環境、SmartTVが普及している環境が土台となっております。

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※Excerpt from eMarketer

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※Excerpt from eMarketer  

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※Excerpt from eMarketer

■日本におけるプログラマティック領域の浸透度
一方で、ここ数年での日本のプログラマティック市場に焦点を当ててまいります。
世界の潮流と同様、日本においてもインターネット広告費用に充てられる費用は年々高まってきており、まだテレビメディアに肉薄する程ではありませんが、着実にインターネット広告市場が拡大しています。
デジタルインフラ環境の向上とユーザーのライフスタイルの変化によって、ユーザーと広告のタッチポイントは確実にデジタルシフトしており、今後も市場拡大の一途を辿ることに疑いようがありません。

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※Excerpt from 電通『日本の広告費』

では、インターネット広告費の内訳に目を向けてみると、下図(※2016年データ引用)からわかるとおり、日本においてプログラマティック広告に投下される費用はまだ少ないと見てとれます。インターネット広告費用全体での運用型広告(ソーシャル含む)のシェアは日米で変わりはありませんが、運用型広告費の中でのプログラマティック広告活用費は20%となり、米国の47%と比較してもだいぶシェアが少ない状態となります。米国ではインターネット広告市場がTV広告市場を追い越した事象や、RTBを介したメディアバイイングの占有率が今後も大幅に伸びていることを考慮すると、企業が投資する全広告費用の中でプログラマティック広告がかなり浸透していると言えるのではないでしょうか。

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※Excerpt from CampaignJapan

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※Excerpt from CampaignJapan

日本もプログラマティック市場の視点で世界的に大きなマーケットだと捉えられ、グローバルベンダーが多くローンチを果たしており、そのようなサービスの供給は事実マーケティングのテクノロジー化を重要視する広告主の需要に呼応しているように感じます。プログラマティック市場は黎明期より拡大していることは大いにポジティブな側面でありますが、想像していたよりインターネット広告市場に占める割合が伸び悩んでいる印象をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

■日本と海外におけるプログラマティック市場環境の違い
上述の通り、海外(主に米国)においてプログラマティック活用の浸透度がかなり高まっている一方で、日本において未だプログラマティック広告市場は全体のデジタル広告費用に占める割合が非常に少ないことが窺えます。
米国に比べ、日本のプログラマティック市場が何故伸び悩んでいるのか、日本と米国におけるプログラマティック環境の違いという側面から述べてまいります。

『Transparency=透明性』
これは日本だけでなく世界的にプログラマティック市場を更に活性化していく上で不可欠なキーワードではないでしょうか。デジタルインフラの向上によりユーザーへのタッチポイントとしてデジタル広告市場が伸びている事象もある一方で、データを駆使した「枠から人へ」のターゲティングの需要が高まっております。メディアバイイングから、その他デジタル広告とのアトリビューション分析、ウェブ上でのユーザー行動、パブリッシャーへの仕入れ等、全てが広告主にとっての可視化が進めば、プログラマティックバイイングの活用価値が高まり、デジタル広告費の中でのプログラマティックのシェア率も高まるのではないかと思っております。

『Transparency=透明性』について以下の2つの切り口から日本と海外(主に米国)におけるTransparencyの問題を列挙してまいります。

(ⅰ)In-House(内制化)レベル -実務レベルでの透明性と社内共通言語としての透明性-
プログラマティック広告の取引スキーム上での透明性担保の観点でインハウスは有効な手段となり、取引上発生するフィーの透明性、広告キャンペーン運用、データ構築方法、データ分析等のナレッジの可視化が主にフォーカスされ、米国におけるインハウスは数年前よりかなり日本に対して先行しているのはもう周知のことだと存じます。「自社のビジネスをより理解しているのは自分達」という合言葉のもと、ディレクションとエグゼキューションを全てではないですが必要最低限を外部に委託して手動でキャンペーンのPDCAを回しております。
事実、マーケティング予算で上位にランクするような米国の大手広告主はプライベートDMPによる社内データ蓄積や直接的なテクノロジーベンダー、広告プラットフォーム事業者とパートナーシップを組むケースが散見されます。一方で、現在日本においてインハウスニーズは確実に存在しますが、従来型のアウトソース依存や広告運用のナレッジ蓄積のためのインハウス等専門領域のみに特化するケースがまだまだ多い印象です。

米国でインハウスが加速する理由は単に広告運用等スキルベースの内制化による透明性保持に留まりません。
それまで闇雲に代理店に委託していたことが、(特に1st party data量が非常に多い企業となると複数代理店の抱え込みによって発生するコミュニケーションの複雑化、課題の可視化が難しかったが)インハウス化が進むことで上述した運用やナレッジの透明性担保の他、エグゼキューションスキームの向上(=意思決定の速さ)、社内コミュニケーションの円滑化が進み、プロモーションでの次の一手が打ちやすくなり、結果的にPDCAサイクルの高速化を実現させています。

また、ここでの社内コミュニケーションとは単にマーケティングディヴィジョンのみに留まるのでなく、ファイナンスディヴィジョン、ITディヴィジョン等、企業内の横軸でのコミュニケーションの円滑化進行の一助ともなりえます。プログラマティックバイイングとして1st party dataをどう利用するかがキーとなるわけですが、そのような企業内で重要な情報を扱う場合、もはやマーケティングディヴィジョン内のみに留まらず、ディヴィジョンの垣根を越えて一事業内でのテクノロジーの一元化を急がせる必要があります。プログラマティック言語がある程度ディヴィジョンを越え認識されていれば(企業内でのディヴィジョンを跨いだ自分事化がなされていけば)、社内でのコンセンサスが取りやすくなります。特に国外に跨るビジネスを展開する企業やコングロマリット企業の場合、国の文化や支社内での意思決定に左右される可能性があるため、遠回りと受けとられますが、時間をかけ、投資をし、国毎にかつ組織的にプロフェッショナルを教育する風潮が今後活発化するかもしれません。

※補足 -In-Houseにおける人材育成について-
上述の米国でのインハウス事情を踏まえると、透明性の担保が実務上、意思決定上でもクリアとなれば日本のプログラマティック広告の活用度が伸長し、市場活性に繋がる可能性は十分にあると感じます。一方で、課題は実行の担い手となるタレントの保有と業界内再編のスピード感への対応であると感じています。
事実、インハウスが進んでいる米国でも、企業内で完全インハウス化が達成されることは難しく、タレント不足を叫ぶ声は少なくありません。マーケッター自身でメディア選定、DMP構築できるタレントが潤沢にいるわけでなく、代理店で一部請け負うケースは存在します。特に米国大手の広告主において垂直統合型のインハウスを敷いており、代理店にプログラマティック広告のオペレーション委託(夥しい数のDeal IDやパラメータ管理等)し、実際のデータ元の管理、分析、次の一手となるディレクション遂行は広告主によって実施されているケースが多い状況にあります。しかし、本業の代理店と同じ目線でディレクションやエグゼキューションを語れるタレントがブランド企業に在籍している分、プログラマティックバイイングに従事するタレントの浸透度において日本はまだ後塵を拝する形になるのではないでしょうか。

また、業界内でのカオスマップ上での分断と統合の尋常ならざるスピード感もインハウス化を妨げる一因となることを無視できません。日々テクノロジーやインフラの向上により、新たなプレイヤーがカオスマップ上に登場してくることで、分断化(Fragmentation)が進み、専門性も日々高まっていく、そのような中でインハウスとして全てを取り込む、もしくは選択と集中を企業の意思決定で随時行っていくことは困難を極めるでしょう。しかし米国の場合、後述しますが業界シンポジウムが多く開催され、利害の異なる有識者が一同に会するため、情報入手のタッチポイントが多く、分断と統合のスピード感に追い付いていける土壌があります。

(ⅱ)Distance -DemandとSupplyの距離感-
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広告枠を安価に買い付けるAdvertisers(Demand)とメディア収益最大化を狙うPublishers(Supply)、相反する二者がプログラマティック広告の取引上に存在します。従来の純広型であれば手売りであるため、両者のコミュニケーションの弊害となるものが希薄でしたが、取引がシステマティックになることによって両者の物理的コミュニケーションの弊害となりえます。また、コミュニケーションの希薄化、そもそものマネタイズポイントの違いが相まってDemandとSupply双方の情報量や保持するノウハウ、知識などが分断されていく懸念もあると感じております。
※メディア在庫の優先買い付け分をDemandへセールスとして流す等、DemandとSupply両者に跨り活動している事業者も多く存在しています。

また、海外と日本で開催されるプログラマティック業界のシンポジウムでも異なる風景が広がっており、海外の場合、Demand、Supplyの隔たりがなく、両者が最新トレンドの共有や意見交換がなされる機会が非常に多く散見さる一方、日本においては文字通り両者が別々のベクトルを向き、それぞれの庭の中のみでの会話になりがちです。本来、ビジネスモデルが相反する二者であるため、日本での立ち位置が自然として受容されるのでしょうが、先述したIn-Houseがより進む米国においては、状況が一変します。

先日サンフランシスコにてAd Exchanger主催のProgrammatic IOで某大手広告主のVPが登壇し、彼らが実際にIn-Houseで実施している内容について聞くことができました。※主に中間業者の中抜きや彼ら主導で進めている内容についての共有。
驚きを隠せなかったのはDemandサイドのみで完結するものだけでなく、細やかなBid単位での検証を可能にすべく、入札ログやパブリッシャーサイドからのレポート入手等を独自にPublisherサイドと連携し進めていたことです。
プログラマティック広告取引のバリューチェーン上、Demandサイドで一番端に位置するマーケッターがSupplyサイドまで跨っている様子は、日本でDemandサイドのプログラマティック事業に携わる私にとって驚き以外の何ものでもありませんでした。上記実施されている環境はDemand-Supply間の距離感によって引き起こされている事象と見て取れますが、一方でインハウス事項でも記載した日本のタレント不足問題もここでも要因として考えられます。Demand内の既存プロモーションで満足している、もしくはどう在庫を買い付けるかまで、マーケッターにも代理店にも考えるリソースがない可能性は多少あるかもしれません。

別の側面として、世界的にGoogleとFacebookの市場複占化と排他化(=Walled Garden)が進み、一方で分断されていたその他プレイヤー間(Demand内、Mar-tech事業も)の統合も加速しており、日本でもまだ緩やかなスピードですが徐々に統合されつつあります。市場内で人へのターゲティングが至上命題という機運の高まりもあり、Demand内での統合はある意味、必然であったと感じられる一方、Supply側からのフロアプライス、入札ログの開示等のSupplyとの協業があれば、より一層インプレッションの価値が変わってくるのではないでしょうか。Demand内のみならずDemand-Supplyでの歩み寄りがあれば、透明性がより担保され、利用価値として市場複占する二大巨頭に匹敵できると感じています。昨今まで日本市場でのプログラマティック広告活用がブランディングよりダイレクトレスポンス寄りでありましたが、今後ブランディング視点に傾倒したターゲティングがマーケットシェアを占有していくとなると、再度「人から枠へ」の考えが出始め、PMP実施の際でのDeal ID発行の際でのフロアプライスの直接交渉等、二大巨頭による業界の寡占化に抗う形として、今後両者の歩みよりが日本のおいても進みそうな予感はあります。

■最後に
改めて日本と海外(主にプログラマティック先進国米国)におけるプログラマティック市場環境を比較すると、数年前では米国の3年遅れていると言われて久しいですが、今では一つ一つの概念、考え方の差が縮まってきていると感じられます。事実、数年前までBrand SafetyやViewabilityといった話題に大きな関心が寄せられることはあまり多くありませんでしたが、現在では日本の多くのトップマーケッターが本格的にFraud対策に踏み込むケースを散見します。
日米の差として感じるのはプログラマティックを駆使してマーケティング活動の目的を達成する際に、取り巻く環境整備(環境の透明性)後の配信の透明性をどれだけ担保できるか、またDemand内での統合スピードへの対応やSupplyサイドとの歩み寄り、さらにはそこに従事するタレントの共通認識がどれだけあるか、ということに尽きると感じます。プログラマティック広告における透明性が高い次元で担保され、それを下支えするタレントが増えれば、プログラマティック広告により光が当たり、インターネット広告市場内でのシェアも高まる可能性があるのではないでしょうか。

もちろんタレント不足に関しては一朝一夕で解決できる問題ではありません。インハウス実施の上でのDemand内でのタレント不足はもちろんのこと、日本においては代理店や運用者のタレント不足も同様に深刻となります。しかし、今後AI等自動ツールの導入が進めば、それまで汎用的業務が一掃され、複雑化された広告運用の簡略化が進み、より創造性を持った役割に従事することが可能となってきます。
広告買い付けスキームのサプライチェーン上で下流(もしくはSupplyサイドも含めて)を熟知している者が上流工程へシフトしていくこと、業界内で垣根を越えた度重なるシンポジウムでの交流等が合わさって、広告主に提供できる幅、インハウス支援領域の幅が広がっていくのではないでしょうか。


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